FEATURE-VOL.015

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FEATURE

Photo:山下由紀子

先日、『図解 マインドフルネス―しなやかな心と脳を育てる―』(医道の日本社刊)が発売しました。出版を記念して書籍の監訳を行った脳科学者の中野信子さんに、今話題のマインドフルネスについて、脳科学から見た効果、瞑想への取り組み方、生活への応用など幅広くお話いただきました。

脳科学とマインドフルネス

―瞑想は私をどう変えるのか―

 

 

マインドフルネスは内側前頭前野を発達させ
人間の「知性」を高める

 

 

――今、全世界でマインドフルネスに注目が集まっています。マインドフルネスの「瞑想」が脳に与えるメリットを、脳科学的な見地から教えてください。

 

マインドフルネスが脳に与える効果として主にいわれているのが「メタ認知を促す」ということです。「メタ認知」とは、「自分の状態がどうであるかを認知する」ことで、これは脳の内側前頭前野という場所で行われています。

 

これまで長い間、「大人になると脳の神経細胞は発達せず、死んでいくだけ」といわれてきました。
しかし近年、この内側前頭前野と海馬は、高齢になっても神経細胞の新生が起こることが分かってきました。ただし、新しく生まれた神経細胞は、ちゃんと使ってあげないと死んでしまうので、他の神経細胞から栄養をもらったり刺激をもらったりする必要があります。逆にいえば、ちゃんと神経細胞を使っていれば、大人でも脳を発達させることができるということです。

 

内側前頭前野は、思春期ごろから徐々に発達し、大人になってようやく成熟する部分です。最近では30歳くらいまでかかって、成熟するといわれています。

 

完成するまで時間がかかるということは、それまでの育て方次第で変えられるということです。「鍛えられる、変えられる領域」なのです。
この内側前頭前野を鍛えるのに有効なのが日々の「自分のことを自分で見つめる」トレーニングです。

 

 

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――内側前頭前野を鍛えて、メタ認知を促す方法として「瞑想」が有効なのですね。

 

もっと重要なことは、この内側前頭前野は「知性・知能を決める」領域でもあります。知性とは、「記憶力がよい」「計算が早い」ということではありません。「自分のことを客観的に見つめる能力」こそが、まさしく人間の知性といえます。自分のことを客観的に見つめる能力は、他者のことを思いやる能力と比例します。

 

人間の知性とは、集団の中で上手く生き延び、社会の中で上手くやっていくために備わっています。記憶や計算は機械でもできますが、機械が「他者を思いやる」のは、まだまだむずかしいですからね。社会で生き抜くためにも、記憶力よりこの能力を鍛えた方が実践的です。
日々の瞑想は5分程度と短くても構いません。ちょっとずつの積み重ねが大きな差になると思います。

 

 

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ネガティブなツイートの前に
自分の感情を客観視してみよう

 

 

――先生ご自身も内側前頭前野を鍛えるトレーニングをされているのですか?

 

「自分のことを自分で見つめる」練習として、自律訓練法を取り入れています。本書でいうと、ボディ・スキャンの瞑想が比較的近いと思います。

 

そのときに気づくのが、内観では「私の隅々まで、私がコントロールしている」という意識があっても、そんなことは全くないということです。
緊張して心拍数が上がっているとき、どんなに「静まれ!」と願っても余計ドキドキしちゃいますよね。私たちは心拍ですら自由にコントロールできていないのです。自分がいかに自分の思い通りにならないかを知ることは、すごく面白い経験だと思います。

 

同じように、自分の感情もほぼ自由にはできません。冷静に考えているつもりでも、感情的になっていたりします。瞑想でトレーニングして、自分の中で起こる色々な現象をエンターテイメントっぽく客観視できるようになれば面白いですよね。「私今焦ってる!」とか、「今、すごくイライラしてるな~」とか分かると、一呼吸置くことができますから。この「一呼吸置く」「客観視する」ことが、現代人には特に必要だと思います。

 

今の時代、パッと思ったエモーショナルをすぐにSNSや掲示板に投稿することが一般化しています。個人の感情的な発言は全世界に発信され、記録が残り、それが大衆の意志を形成し、政治的な決定も左右しかねない……なんてこともあります。こんな「速い」時代だからこそ、自分を客観視してコントロールできるようになると大きなメリットがあると思いますし、その重要性を知ってほしいです。「これは本当に私の理性的な考えなのか」「本当に伝えたい、伝えるべきことなのか」「単にムカついたから書き込みしたかっただけなのでは?」と一旦、感情を見つめるのです。

 

もちろん、感情を抑えずに伝えた方がよいこともありますが、自分を客観視できればネガティブ感情の発信の仕方は洗練されていくかもしれません。

 

 

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クリエイティブな瞑想を通して
「本当にやりたいこと」を洗い出す

 

 

――ボディ・スキャン以外にも、本書ではいくつか瞑想法が紹介されていますが、何かおすすめのものはありますか?

 

山になりきるという山の瞑想は、とてもクリエイティブで前頭葉を豊かにする感じがしますね。この「山」というのは1つの例だと思います。山の瞑想をお手本にして自分のなりたいものになりきってみたり、ありえないシーンを再現してみたり…オリジナルの瞑想を編み出しても面白いかもしれません。例えば、ジメッとした日陰植物になってみるとか、アンパンマンになりきってみるとか(笑)。

 

 

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私もたまに、「これ以上無理だ!もう死んでしまおうか」と思ったときに、神田橋條治先生が提唱されている「一回死んでみる」っていう瞑想をしますよ。詳細は省きますが、床に仰向けに寝て「私は死んだ」って思いながら、自分の身体がゆっくりと朽ちていく想像をするんです。やがて肉が全部風化して、きれいな骨だけが大地の上に残っている……。そのまま気が済むまで大の字になっていて、「そろそろ生まれ変わりたい……」と思い始めたら、少しずつ地面からエネルギーを吸収して生き返るんです。

 

ポジティブなものでもネガティブなものでも、自分がなってみたいものに自由になりきってみると、人生で本当にやりたいことが少しずつ見えてくるかもしれません。マインドフルな想像を通して、じぶんがやるべきことが明確になってくるんじゃないでしょうか。

 

 

 

まずは、瞑想を否定する理由を考える
瞑想中に違和感があったら、やめても問題ない

 

 

――本書でも科学的な解説ページはありますが、まだどこかマインドフルネスに抵抗感がある人もいるかと思います。先生も、本書の監訳者の言葉で「どことなく胡散臭いような感じのする何かではないのだろうか、と疑問を持たれがちな側面があることも否めない」と書かれていますが……。

 

素直に取り組めないときは、まずは、「やりたくない自分を見つめる」ことから始めるとよいのではないでしょうか。マインドフルネスに対して疑問を持っているならば、「なんで怪しいと思ってるんだろう、私」「どうして否定するんだろう」と、開示してみてください。自分を飾らずに、やりたくない自分を意識することが第一歩だと思います。

 

マインドフルネスが仏教をベースに発展してきたという背景から、抵抗感を持っている人もいると思います。実際、1990年代にある宗教団体が起こした反社会的な事件がきっかけで、心の世界から距離を一歩置いてしまった人も多いと感じます。それ以前の日本では、スピリチュアルなコンテンツは人気がありましたから。

 

ただし、宗教的なものが受け入れられづらくなってきている現代でも、人間の「自分を分かってほしい」「不安を解消したい」という願望は変わりません。おそらく、人々の「心の葛藤や問題を、宗教的なものではなく科学的に解決したい」という気持ちを埋める手段として、今、脳科学がブームになっているんだと思います。皆さん、本当は脳についてそこまで詳しく知りたいわけではないと思うんですよね(笑)。

 

本書の流れは、実践的な導入から始まって、中ごろに脳科学的な解説や、本質的な説明が出てきます。マインドフルネスに興味がある多くの人は細かな脳の解説よりも「不安やモヤモヤを解決する方法」を知りたいわけですから、最初に難しい脳科学の説明があると、ちょっと手に取りづらいですよね。とても欧米的な本の作りですが、実践的で取り組みやすく、かつ科学的な理論も理解しやすいので時代に合っていると思いますよ。

 

 

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また、「やりたくない自分を見つめる」のと同じで、瞑想を始めてからも「なんでこんなことしてるんだろう?」という違和感を感じたら、それも否定せずに、受け入れてほしいと思います。それが本書では許されていて、類書と大きく違うところです。

 

「今この瞬間、あるがままでいる」ことが大切なのです。日本人はとても真面目な人が多いので、一旦始めると「ストレスをなくすためにマインドフルネスを必ず受け入れなくてはいけない」と考えがちですが、そんなことは全くありません。「自分の今の状態」を全力で受け入れるというのが、マインドフルネスの一番の基本です。それさえ踏まえておけば、どんなやりかたをしてもよいと思います。

 

本書にもいくつかプログラムが提示してありますが、それはある程度の目安として、自分の心の状態や求めているものに合わせて変化させてほしいです。

 

 

 

マインドフルネスはビジネスだけでなく
夫婦・恋人・家族の間でこそ活用したい

 

 

――今、マインドフルネスは企業でも取り入れられています。本書でも職場での人間関係や、会議、交渉のシーンでマインドフルな考え方の活用法が解説されていますが、その他の場面での活用法はありますか?

 

自分を客観視したり、「今この瞬間を大切にする」というマインドフルネスの実践は、本当は家庭生活でこそ生かすべきだと思います。
ビジネスの現場だと、「ありのまま」の自分をさらけ出すことは難しいですし、多少遠い間柄だからこそ、ペルソナを通して関係をキープしているところがあります。でも、家庭では、むき出しで相手と顔を合わせます。自分を作ってしまうと、それはそれで疲れてしまいますから。マインドフルネスは、近しい間柄でも、感情的にならずに自分の思いを伝えるために、すごく有効ですよね。

 

特に夫婦が「ありのままの状態でお互い過ごせる」という間柄を築くのは、とても難しいですよね。近年は離婚率も高く、上手く関係を継続している夫婦のロールモデルを知らないまま結婚し、悩んでいる人も多いのではないかと思います。その人その人の人生ではあると思いますが、ありのままの自分でいつつも、自分の感情を客観視することで「関係が崩壊しない気持ちの伝え方」ができる、と知って欲しいです。

 

例えば、旦那さんの帰りが遅くて「なんでこんなに遅かったの!?」とエモーショナルになって問い詰めてしまうのではなく、一旦自分の感情を客観視して「あぁ、自分はとても不安だったんだ」とか「悲しい気持ちになってるな」と自ら分析して原因を分かったうえで、自分の気持ちを上手に相手に伝えることが大切です。自分のことをよく分かっていない人が、他人を理解できるなんてことはありえません。そう考えると、マインドフルネスは、大切な人を愛していくためのトレーニングともいえますよね。

 

 

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シニア世代のストレス解消法としても
オススメしたい手段

 

 

あとは、定年退職されたばかりのシニア世代の方々が、マインドフルネスに取り組むのも有効なのではないかと思います。
意外と、最近の若い人はメタ認知が自然にできてるんじゃないかと思うんです。若い人の間では、自分のことを客観視「させられている」空気を感じます。逆にメタ認知ができてない人を「この人、イタい」と嘲笑する風潮があるじゃないですか。

 

むしろ、これまで人生をがむしゃらに働き、全力で走ってきたという方にこそ、自分を客観視するトレーニングが役に立つんじゃないかと思うんです。

 

例えば、年配の方で電車の中で不謹慎だと思う光景を目撃するといきなり、義憤を感じてしまって怒りが抑えられなくなったりとか……そんな方もたまにいますよね。シニア世代の方々はこれまで多くの不安と葛藤を抱えながら、それを乗り越えてこられたと思うのですが、時代が進んで今ようやく、心のわだかまりの解消法を科学で説明できるようになってきました。引退をして、山登りや釣りや旅行を謳歌する……というのももちろんいいですが、マインドフルネスで「自分自身を知る」ことは、本質的な心の充足に繋がると思います。ただ、はじめはあまり難しいことを考えずに、気持ちをリフレッシュさせる一助として、気軽にリストに追加してもらえればいいなと思いますね。

 

 

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【書籍情報】

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図解 マインドフルネス ―しなやかな心と脳を育てる―

 

著者 : ケン ヴェルニ
監訳 : 中野信子
仕様 : B5判 226頁
発行年月 : 2016/6/15
定価 本体2,700 円+税

 

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