FEATURE-VOL.014

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FEATURE

PHOTO:川島一郎(camp)

2000年シドニーオリンピック女子マラソン金メダリストであり、現役引退後はマラソン解説やイベントなどで幅広く活躍されている高橋尚子さん。現在は、2020年東京オリンピック・パラリンピック組織委員会のアスリート委員会委員長としても、多忙な日々を送られています。そんな高橋さんに、健康の維持やランニングを続けるためのアドバイス、東京オリンピック・パラリンピックに向けた決意などをうかがいました。

緊張と弛緩の繰り返しが深いリラックスにつながる

 

――選手として実業団などで活躍されているときには、いろいろなケアをされていたと思いますが、鍼やマッサージなど、どのようなケアをされていましたか。

 

高校時代から鍼治療を受けていました。一番頻繁に治療院に行っていたのは大学生の頃ですね。元アスリートの中国鍼の先生がやっている治療院に、10日に1回ぐらいのペースで通いました。全身に50本以上鍼を打ってもらって、身体に刺した鍼に電流を流す電気鍼も行っていました。

 

鍼を受けると全身がリラックスして、特に肩や背中が楽になり、呼吸がしやすくなって気持ちよく走れるんです。呼吸がどれだけ楽にできるかが勝負を左右するという意味においては、走るとき大切なのは足よりもむしろ背中のほうなんです。ただ、背中は自分の手でマッサージできないので、そこをしっかりとケアしてくれる鍼治療はおすすめです。特にインカレや全日本など、狙った大会の1週間ぐらい前には必ず鍼治療を受けるようにしていました。

 

もともと私は注射が大の苦手で、身体に鍼を刺すことが怖くて仕方がなかったんです。鍼治療も最初は怖かったのですが、実際にやってみると、全身くまなく刺激してくれて、また、表面だけではなく内側から筋肉に直接働きかけてくれて、治してくれるのを感じました。

 

それでも、鍼を打たれるときは怖くて身体が一瞬こわばってしまうんです。でもこわばっているからこそ、脳は逆に全身をリラックスさせる指令を送るので、より緊張が緩和されると考えています。身体って必ずそういうメカニズムを持っていますよね。アイシングで患部を冷やして血管を収縮させたあとでは、元の状態より血管が広がって循環がよくなるように。

 

鍼灸師の先生には、鍼は怖くないよというコメントのほうがうれしいのかもしれませんけど、やはり鍼を身体に入れるのは怖いです(笑)。ただ、これは私の個人的な感覚ですが、ちょっと怖いなと思うからこそ、緊張と弛緩の繰り返しが質の高いリラックスにつながったのだと思います。

 

鍼治療を受けることで早く疲労が抜けますので、特にこれからトップ選手を目指す高校生や大学生の若い人たちにはぜひそのメリットを実感してもらいたいと思います。

 

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――アスリートの方々は鍼を受けていますが、一般の方には鍼のことはよくわからないというのが現状かなと思います。

 

私が最初に受けたのが太い中国鍼だったので余計にそう思うのかもしれませんが、最近は刺されても全然分からないくらい細い鍼や、衛生的な使い捨ての鍼も多くなりましたので、鍼に対する印象もだいぶ変わってきました。

 

ランニングブームでたくさんの人が走り始めて、どちらかというと汗くさい陸上競技のイメージから、走る女性は美しい、格好いいというイメージに変わってきました。鍼灸もうまくこのブームに乗って、ランナーと一緒に歩める仕組みをつくって、明るいイメージで健康を考えるパートナーになってもらえればいいなと思います。